コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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ーおすすめ記事ー

『別冊宝島 将棋「名勝負」伝説』を読んで②

  前回の続き

http://fgfan7.hatenablog.com/entry/2016/10/27/104343

②では

・「ソフトの申し子」インタビュー150分!「私の勉強法、明かします」 千田翔太五段

の記事について見ていきたいと思う。

インタビュアーは「不屈の棋士」の著者、大川慎太郎氏で本インタビュー記事はその続編と捉えていいだろう。

「不屈の棋士」での千田五段のインタビューは2015年12月上旬。

本書のインタビューはその9ヶ月後に行われている。

その今回のインタビュー冒頭で「『不屈の棋士』でほかの棋士の発言を読んで感じたことはありましたか?」という問いに対して千田五段はこのように答えている。

「自分の頭で考えることの重要性に言及する人が多かったですよね。真っ先に感じたのは、「みなさん、そんなに強かったんですか」と。」

実はこの発言にはこのインタビューが行われる1ヶ月前くらいに千田五段のTwitterでそれを匂わせる発言があった。

https://twitter.com/mizumon_/status/763628438032789504

千田五段は人間の頭で考えるよりもソフトから学び取るほうがよほど効率がいいと言及しており、他の「不屈の棋士」でインタビューを受けた棋士とは一線を画することがよくわかるエピソードだ。

そして、インタビューではサポート役としてポナンザの調査をしていく過程でそのあまりの強さに驚いたことが語られていく。

今でこそ浮かむ瀬、真やねうら王といったフリーソフトも序盤が相当強くなったが、2016年初頭のコンピュータ将棋界ではポナンザの序盤がひときわ異彩を放っていた。かくいう私も「電王PONANZAに勝てたら賞金300万円!!」という一般の企画でその強さを目の当たりにした。とにかく序盤の戦術が凄いのだ。プロ間での流行りとは違うのだがそれが圧倒的に強いのである。ほとんどのアマチュア挑戦者は序盤で大量リードをponanzaに奪われ、いいところなく敗れていた。

千田五段もそれは感じたようで

「それまでは「序盤で変な指し方をする」と思っていたのですが、「そうでもないぞ」というのが分かってきて、納得できるようになったのです。」

と語っている。

最近プロ間でも圧倒的なスピードで流行している角換わり腰掛け銀における▲4八に金を上がる指し方もponanzaが再ブームの立役者だと言われている。

これにより、それまではNineDayFeverが将棋の理想と語っていた千田五段もponanzaが最も理想とする将棋だと考えを切り替えていった。

最近の千田五段の発言での「どうしても叡王戦で優勝してponanzaの貸し出しを受けたい」という趣旨の発言もこの第1期電王戦でのサポート役での一時的な貸し出しが大きかったのだ。

「不屈の棋士」で千田五段は人間の終盤はソフトに劣るという発言をしていたが、本インタビューでは序中盤での人間の課題にも触れている。

「人間は相掛かりの指し方がヘタすぎます。それは矢倉や角換わりほど定跡が整備されていないからです。」

「人間は定跡の使いすぎによって、序・中盤があまり鍛えられていない。」

と語っている。

要するに、千田五段から言わせれば人間はソフトに比べて序盤・中盤・終盤全てにおいて隙がありすぎる。と言うことだろう。普段の他のインタビュー記事を見てもわかるが千田五段は本音で物事を語る。

しかし、これは言い換えると人間はソフトに比べて明確に棋力は劣るがその分、勉強方法によっては今後大幅な棋力向上が見込めるということだろう。

その後のインタビューでも千田五段はponanzaを絶賛する言葉が続く。

「最強ソフトのポナンザを一時期入手できたこともあって、レーティングの向上が見られました。」

と自分自身を振り返っている。

なお、千田五段が今使っているフリーソフトについての記述もあるが、これは千田五段はその時その時で最強のフリーソフトを使用していると思うので今は浮かむ瀬や真やねうら王をメインで使用していることだろう。

(勿論、叡王戦で優勝したらponanzaに切り替えるだろうが。)

その後は藤井新四段についての言及もあるがそれは本記事では割愛させていただく。

(本書を手にとって読んでいただきたい。)

最後に改めてポナンザ貸し出しへの強い願望が語られてインタビューは終了。

試行錯誤の末、ponanza将棋からの勉強が最善という結論を出した千田五段。

叡王戦をはじめとした各棋戦での今後の活躍に期待したい。

(③に続く)