コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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「不屈の棋士」を読んで気になったこと(2730字レビュー)

今回、「不屈の棋士」を読んで気になったことを書いてみようと思う。

共感できた点

ソフトの力を借りても最終的には自分で考えないと読む力は衰える。

定跡のサイクルが早くなり、流行の移り変わりのスピードが早まった。

共感できなかった点

ソフト対ソフト(フラッドゲート)の将棋は参考にならない。面白くない。

特に強く印象に残ったのはこの点である。

勿論、インタビューに応じた棋士は11人いるので上に書いた意見が全てではない。

積極的にfloodgateの将棋を研究に取り入れているという発言をしている棋士もいた。

今回、このレビューを書くにあたっては本に書かれていることを引用するのは極力避けたいと思っているので、誰が発言したのかというのはあまり書かないつもりだ。

ソフト活用の私自身の経験を踏まえて書いていきたいと思う。

共感できた点

ソフトの力を借りても最終的には自分で考えないと読む力は衰える。

これは大いに共感できた。例えば将棋ウォーズには棋神機能があるが、これにばかり頼ってしまうと自分で読む力が相当落ちてしまうと感じた。実際、将棋ウォーズで難しい局面で棋神を使って指してから棋神を使えない対局サイトで指すと、急所の局面でなかなか手が見えないと感じることがあった。棋神を使っても最終的には自分で考える癖を身に着けないと棋力の向上は見込めないと感じた。

定跡のサイクルが早くなり、流行の移り変わりのスピードが早まった。

これは複数の棋士が指摘していたが本当にその通りだと感じている。

例えば、コンピュータが発祥とされる矢倉に対して左美濃で戦う「居角左美濃」という戦法が少し前(1,2か月前)に大流行したが現在はややそのブームが落ち着いたという見方がある。

この戦法はまだ、定跡書が発行されていないがネット上でその研究が行き渡ったといういきさつがある。ニコニコ生放送、ニコニコ動画、Twitter、ブログなどのコンテンツでさかんにこの戦法について情報が流れた。(私もその流れを作った内の一人。)

その結果、大流行をしたがその分対抗策や回避策が発見されるのも早かった。

私がこの戦法の流行がピークを越えたのだなと思ったのは、

2016年7月22日、第42期棋王戦挑戦者決定トーナメントの佐々木勇気五段ー羽生善治三冠戦を見てだった。

この対局で先手の佐々木五段は5手目に▲6六歩と突き居角左美濃を誘った。それに対し、羽生三冠は誘いに乗らず古くからある△5三銀右急戦を採用したのだった。

これは羽生三冠が居角左美濃を優秀と思っていないからだろうか。

しかし、羽生三冠は他の対局で矢倉を志向する際、最近は5手目▲7七銀を多用しているのである。なぜ▲6六歩ではないのか。

相手に居角左美濃を指されるのは嫌だけど、自分では居角左美濃を指そうとしないのが興味深い点だ。以前に2手目△3二飛が流行していた時期に羽生三冠はタイトル戦で渡辺竜王相手に思い切って採用していた。

なので私は羽生三冠は新戦法を意欲的に採用するものなのだと思っていた。

このように最近は流行の移り変わりのスピードがかなり早まっているのを感じている。

今後はこの流れがいっそう加速し、自分が新しい戦法を知った時にはもう既にその戦法は下火になっているということが出てくるのかもしれない。

共感できなかった点

ソフト対ソフト(フラッドゲート)の将棋は参考にならない。面白くない。

私はTwitterのアカウント名をfloodgate_fanにしているほどソフト対ソフトの将棋を見るのが好きだし、研究に利用している。本を読んでいく中で棋士がソフト対ソフトの将棋に否定的な意見が多かったのが印象に残った。

主な否定派の意見として

・ほとんど見たことがない

・参考になりそうであれば見ると思うが、今のところはそう思ったことはない

・人間の対局とかけ離れすぎている

・違うゲームを見ている感じ

・人間が指す将棋とは違うものという感覚は間違いなくある

・ほとんど興味がありません

・人間が持つ「怖さ」という感覚が存在しない

・強いんだろうけど、別物

・見ていてワクワクすることはない  …などであった。

の発言は私にとっては衝撃だった。

正直に言ってスポンサーに配慮して本心を言っていないのではと思ったほどだ。

ここまでソフト対ソフトの将棋を切り捨てるのは何故なのだろうか。

私がソフト対ソフトの将棋を見だしたのは、Twitterアカウントを登録した2014年12月頃。それまではなんとなくfloodgateというサイトがあるのは知っていたけれど、ちょうど他の趣味に熱中して将棋から離れていたこともあり、自分から見たいとは思わなかった。それが将棋熱が再熱し、また興味を持ち始めそこでfloodgateに着目した。

まずはよくわからなかったが、次々に対局を見ていった。上のレートの将棋はかなりレベルが高いと思ったが、下のほうは変な将棋が多いと思った。

人間が参考にするなら上のレートの将棋に絞ったほうがいいと思い、そこからは見る将棋を限定するようにした。そしてネットで情報を調べていくうちに、floodgateの棋譜はダウンロードできることを知り、柿木将棋のデータベースに登録した。そこからはfloodgateの棋譜はリアルタイムで指されている将棋をみるより過去の強豪同士の棋譜を見ることが多くなった。まずはponanza、NineDayFever、AWAKEといった強豪の棋譜を見ていった。ちょうど2015年3月にAWAKEに勝てたら賞金100万円というイベントがありそれに参加するために、後手番AWAKEの敗局を収集していった。結果、私は負けたが、Twitterで準備をしてきたことを呟いたら反響があった。この時、「コンピュータ将棋の棋譜に興味を持っている人はたくさんいる」と思った。以降もTwitterではコンピュータ将棋についての呟きを今でも続けている。(最近は少し呟きの傾向が変わってしまい、初期の頃の呟きが好きだった人には申し訳ないと思っている。)

一介のアマチュアの私でもソフト対ソフトの将棋にのめり込んだのだから私よりもはるかに棋力の高いプロ棋士ならもっと刺激的に映るのではないかと思っていただけに上に書いた否定派の意見はある意味ショックだった。

勿論、floodgateの棋譜から積極的に学ぼうとしている棋士もいる。棋士それぞれ確固たる意志があるのだろう。今後も私はそれぞれの意見を尊重していきたいと思う。

 

以上が現時点でこの本を読んで私が共感した点と共感できなかった点である。

この本はその他にも刺激的な内容の話題が多く読んでいて充実感があった。まだ、未読の方は是非手にして読んでみてほしい。